構造と識別~構造推定と計量経済学に関するトピックを紹介する

踏み込んだ構造推定の日本語の文献がネットに転がっておらず、「構造推定」という響きのかっこよさに夢を抱いたりする人や、響きのうさんくささに勘違いしている人も多いので、土地勘のある自分が日本語でまとめます。気が向いたら。全ての記事はベータ版でござい。

chap1:SCP理論:世界標準の経営理論を構造推定の観点からメモ書き

chap1.世界標準の経営理論を構造推定の観点からメモ書き

 

p.35, Glantの教科書で、1999-2002年の米国主要産業のROEのMedianで、ROEのリストが載ってる。製薬業、食品、たばこ、医薬品医療機器、金融という順番はイメージしておきたい。

p37. 完全競争市場の条件4の経営資源の移動がゼロコスト、っていうのはあんまり実証として考えてないかも。IO&Laborではいっぱいありそう。

p.38. 企業が利益がぎりぎりの利益でやっていけるだけの利益しか上げられない、ってのは正確にはzero profit。国内線航空業界の利益率の低さは、entry modelで一番有名な産業のくせに自分は知らなかった。

p.39.独占だと差別化もない、ってのは反対。因果のように書かれているがそんなことはないし、なにが差別化なのか定義も不明。独占企業における差別化に見えるものある気がするが、それって各種価格差別とみてよいのだろうか。これは自明じゃない。

p.43.日本のビール産業、米国シリアル(Nevoだろう)、コーラ業界(なんだっけ)、のカルテルって、データ取れるのか?規模の経済と(内生的な)参入障壁とって、(動学)参入モデルで説明できて推定もできるんだろうか。自明じゃない。

p.45.「産業の中にも企業間の移動障壁がある。ケイブス&ポーターの移動障壁は企業それぞれの特性によって規定される。似た企業同士をひとつのグループと考えると、同じ産業でも異なる複数のグループができる。そしてあるグループの企業が特性の違う別グループに参入するのは難しい。」事前のグループ分けはモデル組めるのか不明だが、製品空間への参入Sweeting2010Randや内生的な製品共変量Fan2013AERなど企業と需要に盛り込んだモデルは最近ある。自明じゃない。

p.47.プラットフォーマーのメカニズムをSCPでとらえられる、ってのは単純化しすぎ、かつ大反対。captive consumerとswitching costの話の方がstraightforward。また(ネットワーク)外部性は内生性の問題から、構造推定では最大の鬼門(だと自分は思う。)「同じSNS内でも違うグループを作り新しい独占を図っていく」という説明は、市場の定義を変えているので一貫性がない説明だが、captive consumerを"市場"と定義してそれをどうやって作るか、それを実証モデリングするかは、自明じゃない。理論オンリーならたくさんあるはず。