構造と識別~構造推定と計量経済学に関するトピックを紹介する

踏み込んだ構造推定の日本語の文献がネットに転がっておらず、「構造推定」という響きのかっこよさに夢を抱いたりする人や、響きのうさんくささに勘違いしている人も多いので、土地勘のある自分が日本語でまとめます。気が向いたら。全ての記事はベータ版でござい。

chap4. SCPvsRBVおよび競争の型.世界標準の経営理論を構造推定の観点からメモ書き

chap4. SCPvsRBVおよび競争の型.世界標準の経営理論を構造推定の観点からメモ書き

 

p85.「結局のところ、SCPとRBVのどちらが重要な問いなのか」という議論は、実務家ポエム的な発想。インプットもアウトプットもどちらも考慮したいならすればいいじゃない、としかいえない。個人のディスカッションならいいけども。次の段落で同じことを著者もいっている。

p86.産業属性固定効果と企業固定効果を入れたパネル分析かつ財務データでばらつきの説明を実証しているのだろうか。疎いのでできるのか不明。

p87.競争の型として(1)IO型競争、(2)チェンバレン独占的競争型、(3)シュンペーター型、とBarney(1986AMR)は定義している。

p88.シリアルやコーラ大手が広告費出して転倒棚スペースを占有、デュポンの過剰投資、が参入障壁の引き上げの具体例として挙げられているが、前者は例として不適切。参入障壁の定義が参入時のみにかかる固定費用FCならば、広告費AがFCを引き上げるのっておかしい。店頭スペースが制約でそのシェアを広告費Aが外生的に奪えるモデルがあれば、正当化できるのかもしれない。広告スペースのモデルはそれで面白いかもしれない。

p89.チェンバレン型の差別化された前提の個別市場で「勝つ差別化」をしないといけない=RBV大事、という流れは分からんでもないが、「勝つ差別化」と「負ける差別化」が定義されていない。事業環境がどのような競争の型かを決める、ってのは産業がベルトランかクールノーかを研究者が決めるのと近いことを言ってるのか?

p90.日本企業はポーター定義の戦略はないが、バーニー定義の戦略はうまくいってたんでは、というミンツバーグの話は巧いね。

p91.シュンペーター型競争は「不確実性の高さとそれによる予測のしにくさ」が大事。同値のことを言ってる。不確実性の程度とは、IO的には産業全体への供給ショック、需要ショック、製品へのショックとか、添え字ごとに入れられるショック、それの分散の大きさ、とモデル化されているはず。ここでは「事業環境や自社の長期的な強みにある程度予測が立つなら」と明言されているが、事業環境はゲーム等の均衡結果のひとつとして解釈できるが、一方で「長期的な強み」ってポエムワードはなんだ?「強み」がモデル化しづらい、そもそも。

p92.Maasで既存の自動車製造ビジネスの競争はチェンバレン型の競争をマッチしているから、高い競争力をもつらしい。ここに「競争力」の定義が隠れてる気がするが、ちゃんと考えた方がいいかも。マッチしているしていないが反証できるのか?ただし、ここのマトリックスは個人的には、ill definedと感じるものの示唆がある。

p94.「鷹の目」を持て、ってのはビジネスパーソンポエムとして効き目がありそうだ。業界ごとの不確実性の濃淡、ってのは個人的には見過ごしてた。例えば、インフラ関係だと不確実性は薄そうだし、ハイテクは濃そうだし、それをモデルのショックで同モデル化するかってのは繋がってなかった。「より現実に近い仮定に基づき、複雑な組織の心理を解き明かす理論が組織の経済学」の「より現実に近い仮定」は不適切。分析するエージェントが企業から個人になって、情報不完備ゲームになっただけでは?