構造と識別~構造推定と計量経済学に関するトピックを紹介する

踏み込んだ構造推定の日本語の文献がネットに転がっておらず、「構造推定」という響きのかっこよさに夢を抱いたりする人や、響きのうさんくささに勘違いしている人も多いので、土地勘のある自分が日本語でまとめます。気が向いたら。全ての記事はベータ版でござい。

トップジャーナルに筋肉x行動経済学としては(多分日本人初で)論文を載せました

リジェクトされたジャーナルのエディターが「こっちの方がニッチだけどトップだしフィットいいよ」お勧めしてくれるまで、ドメイン違いすぎて自分らもレベル感を知らなかった。お勧めされないと投稿先になかったので幸運であった。こういうこともある。 https://t.co/B0l2hjWTMI

— にるそん (@ohtanilson) March 11, 2026

 

かなり運が良く行動経済学のトップジャーナルに載った。2022ABDCランキングでA*である。IOだとRandがA*で、J Industrial EとIJIOがA。LaborだとJOLE, JHR, ILR ReviewがA*で、Labour EconomicsがA、で謎。J of Law & Econ、JLEO、J Industrial Econ、JMCB、J Health Eぐらいのランク感(Ham et al 2025)だが、自分らも実はほぼわかっていない。勝因はフィットとレフェリー運。日本人でスポーツデータ使った論文だと最高位に手が届いた感がある(そもそもJRUに出した人も数人しかいないっぽい)。磯野〜、スポーツデータで俺たちと経済学論文書こうぜ〜

 

論文の裏テーマは「高望み」です。「高望み」は自分のプロジェクトの根底に共通するあとづけの研究テーマ。

 

工程としては、年1レベルぐらいでやってる慶應関係院生の飲み会の2023年末の回でベンチプレスのデータのありかを知っていることをスポーツデータで論文をすでに持っていた共著者にヌルッと話して、ざっとアイデアをオンラインで話してやってみますかということでプロジェクトは2024/4から開始。その前にざっくりとしたアイデアを共有して、行動経済学で日本では一番有名な某先生にコメントをもらって、初動としては悪くなさそうという感触を得た。

 

 

2024/8末の某学会にはフルペーパーを出していた。8月は出張等でアクティブに作業してないので、4ヶ月の工数で2024/7にはほぼ完成した状態。当初アイデアを話した段階でゴールまで見えてたのと、データパターンがだいぶ予想通りだったので、2ヶ月ぐらいで頭の中にあったイメージを全部通して30pぐらいのドラフトにして、共著者に競技デザインの細かいところの実証への巧い使い方&並列の追加分析&デバッグ兼ねて後から細かい修正をたくさんしてもらう形。

 

 

2024年に(主に共著者が)色々学会で発表させてもらってウケとコメントをもらった。自分はアクセプトされてた国際学会に関して、別途参加申請しなきゃいけないことにきづいてなくて、学会のプログラムをみて登録されていないことに気づくというアホなミスをして迷惑をかけた。

 

年明けに追加分析を色々足して2025/03で改訂して投稿フェーズ。

第一志望でターゲットにしてたエディターから「私はすごい好きなんだけど、10年前と比べてスポーツx行動経済学のバーが上がってるからダメ。JRUの方がニッチだけどトップだしフィットいいよ」と教えてもらう。もうちょい第一志望群で粘るもリジェクトになるので、おすすめされたJRUに2025/06に投げたら2025/9ぐらいにエディターから「レフェリーが見つからないのでサジェストしてくれ」との連絡、2026/1にR&R(だが期限2ヶ月でエディターチェックのみするとのことなのでminor revision判定かも)で2026/03にアクセプト。要求に応えるにあたっての必要要件である理論パートの精緻化は、Theory and Evidenceそのもののイメージがよくわからなかったので、完全に共著者のおかげ。

 

 

投稿中にこれをみて他人事じゃないなと思ったものの「頑張ってレフェリー探す」vs「頑張らないでリジェクト」の分水嶺があるっぽいと思った。エディターがクオリティをいいと思ってくれるか、という点は大事なんだと学習した。レフェリーも大変ポジティブだった。

 

この論文はR&RまではAI使ってないのに3-4ヶ月で書けてるので、限定的なセットアップでゴールのイメージがある実証論文を書く型としてこの「3-4ヶ月で論文を最後まで書く」という工程は再現性があると思う。分析内容自体は学部の卒論とかでもでてきそうなシンプルなものなので、このレベル感を目指すのがいいんじゃないか、と思ったり。

 

(追伸)

「JRUに載せたのが初」という誤解と悪い炎上を招きうる表現があったのでタイトルだけ変更しました。筋肉x行動経済学のくくりで日本人初(ニッチなくくりすぎてそりゃそうだろ、というツッコミ待ち)という意図です。

 

知り合いのSさんから、最新の2025ABDCランキングでは、J Industrial EとIJIOとA*。LaborだとLabour EconomicsもA*に格上げになるらしい、と教えてもらいました。RandとJOLEと格上げされたジャーナルの査読の熾烈さが同じとは思えないんですが、(業界の人が必ず参照するというレベルで)定評あるジャーナルをフィールドトップ群とくくるのはwithin業界的にはとてもいいことだし、理系分野はもっとたくさんトップ群があるので相対的なacross業界的な意味でのいいことだと思います。

 

共著者によるまとめ。

 

 

みんな大好きdemand rotation IVの一般化をしたLau(1982)の推定手法の修正と改善


以前アクセプトされた論文の、log-linearにしただけで、理論的にも実装的にもカオスな状態になることを真面目に解析して、どうしてもこの特定化で無理やり通したい場合の推定手法を提示した論文が、某速報にアクセプトされた。

ohtanilson.hatenablog.com


問題自体は2022夏ぐらいに発見して、なんで先行研究がこれでやってうまくいってんねん、というところを共著者に相談して。2022/12ぐらいからモンテカルロシミュレーションなどで調べ始めて、linearはうまくいく(これは結局論文になった)けど、loglinearだと尤度がほぼ平たくなってそもそも点推定も無理そうじゃん(これは今回の話)、という話を掘り下げてみた、というかんじ。

狙っていたところでR&Rまでいったものの、「追加の均衡条件の効果小さくて、ドメイン制約の方が主要な効果はじゃね」というそりゃそうなコメントでリジェクトされて、(細かいところをまじめに解析しない構造推定論文がトップジャーナルにのるなか)まじめに検証する方が損する感じ(現在のhot issueでないことを理由にジャーナルにリジェクトもされている)で個人的には業界に対して非常にお辛い気持ちになった。
でも理論的には、完全に共著者のマンパワーで色々解析されて、もうひとつ大きめのネタが仕上がりつつあるので、そちらに期待。付随の実装小ネタもどっかに出たら学部生の宿題にしたい。

 

マッチング関数のノンパラ推定三銃士の次男を政策誌に打ち分けた


マッチング関数のノンパラ推定三銃士の次の四男を手紙に出した(notに手紙を出した) - 構造と識別~構造推定と計量経済学に関するトピックを紹介する




四男は自分史上最速(5h)で成仏した一方で、次男は初稿に15hかかっていたようです(モンテカルロは長男の方に吸収されているため)が、無事成仏しました。完成原稿にはさらに15hで30hぐらいかかってると思われる。もう論文執筆RTAは仕事で必要になった時しかやりません(三男は13hかかったらしい)。

 

 

 

マッチング関数推定の最近開発された手法をいち早く、某転職プラットフォームのデータに当てはめました、という論文が某政策雑誌に通りました。このプロジェクトをきっかけにコードは同じでデータを入れ替えて横展開するだけでショートを1本書くという選択肢を得た。ビッグプロジェクトの1本目として、ワンチャンデータの強みでもうちょい上行けるかチャレンジしたがリジェクトされたので、追加分析をする伸び代とコストが合わなそうなのですぐ安打に切り替えた。打ち分け打ち分け。

 

WPは2024/8月にできて、コンテンツチェックが5ヶ月かかって2025/1月にコンテンツチェックが通って、WP投げ始め、本誌には3月に投稿、6月にR&R、9月にminor revision, 11月にアクセプト。長男と三男もはよ当たって欲しい(長引かせたいpjtではないので)。

マッチング関数のノンパラ推定三銃士の次の四男を手紙に出した(notに手紙を出した)

マッチング関数推定の最近開発された手法をいち早く、某結婚プラットフォームのデータに当てはめました、という論文が某手紙に通りました。コードは別プロジェクトで何度も使いまわしてるものがあるので、データを入れ替えただけで、全部含めて工数は5時間ぐらい(盛っていない)。ビッグプロジェクトの1本目として、最初から安打の手紙狙いだったので、今後更新できないレベルのコスパのよさ。後続研究に毎回引用できていいね。

 



Ph.D.の構造推定の授業受けてモンテカルロシミュレーション経験ある博士院生レベルのネタですが、この最強データをdigってきたという点が個人specific effectによる99% contribution。

 

WPは4月にできて、4月中にコンテンツチェック回して、5月にコンテンツチェックが通って、7月にR&R、9月にアクセプト。三銃士もうまく当たっておくれ。

海運経済トップジャーナルにマッチング構造推定の海運産業合併への応用がアクセプト

ここで言っていた二本のうちの一本が交通経済のQ1ジャーナルに通りました。

工数は2023/02-07ぐらいで、データの前処理の微修正がほとんどの作業時間で、分析自体は一週間ぐらいで終了。

そこから2023/10にWPにしていくつか交通経済のジャーナルに投げて、2024年にR&Rで改訂自体は2ヶ月ぐらいで終わったものの査読が半年以上かかる感じで、やっとアクセプト。経済学のレフェリーよりはだいぶ優しい。

 

これもJMPのAppendixに載っける予定だったものなので、あとは本体が供養されれば、博論はお焚き上げ。データペーパーとして二本目。実証の人はこういうのを書いて確実な知見を積み上げていくのも大事です。ビッグペーパーのみやろうとするのはユニークデータドリブンの人は無理なのでお気をつけて。

 

これで交通経済と実証マッチングの論文は持ってることで、今後その道での飯は食えそう。キャリア的にはジャーナルランクを上げていきましょう、ということでしょうか。。。

 

ohtanilson.hatenablog.com

マッチング構造推定の手法拡張(マッチングコストの識別と推定)と数値実験の論文

「構造推定やりたい大学院生へのTips」兼「自分の備忘録」としてアクセプトされた論文のきっかけとGithub参照の工数を記録します。 論文はマッチングの構造推定手法を勉強した大学院生がみな知ってるものですが、自分のthird year paperでもこれを拡張して使う予定だしちゃんとやってみるかなー、と思って突き進めんだ副産物です。Ph.D.の構造推定の授業受けてモンテカルロシミュレーション経験ある博士院生レベルのネタなのかな、と思います。 

 

やったことは、指導教官の手法の数値的実験で発見した拡張要素(pairwise stable matchingの下でのエージェント間で共通のマッチングコスト=difference between some matched and unmatched)をIndividual rationality conditionを推定式に導入することで識別と推定できるようにします、数値的な保証を与えます、という流れ。指導教官に相談した際は、新しいことはほぼないね、というコメントをもらったが、いいジャーナルに投げようと思ってやったプロジェクトではないので、Julia勉強と構造推定手習い作品&将来のTeaching用教材と思って気にせず完成。

 

工数は2年目の終わりの5-7月に(約200人月)実験までやっていったん20pのドラフト作って、3年目にいったんショートペーパーの体裁に完成させて一回投稿&2か月でリジェクト、改訂してジョブマ終わりまで3年間放置、行き先決まった段階で投稿、4カ月でminor revision、さらに2か月後にアクセプト。この手法の応用であと2本書いてるので、それらはどっかにアクセプトしておくれー、という感じ。

構造推定をしたい匿名学生の実地体験ルポ (5) 。第五章~データを使ってパラメタを推定するまで(博打推定パート)

下記の

第五章~データを使ってパラメタを推定するまで(博打推定パート)

に関する手記が届いたので公開する。

 

 

 

ohtanilson.hatenablog.com

 

第五章は、ジョジョ5部みたいなもんです。もちろん「これでうまくいくぜぇ!」と思った我々は「これでジョルノたちを倒せるwww」と敵側です。。。Backwardに解いて処刑用BGMをいいタイミングで流しましょう。

 

www.youtube.com

 

 

 

 

 

 

 

難所1. 第四章で作ったモデルに、第二章で集めたデータを対応させるコード実装ができるか(前処理)

 

をどうやって対応するか。感謝の正拳突きや!!!

 

nlab.itmedia.co.jp

 

実際のところは、ちゃんとデータ生成過程が書かれてるモンテカルロシミュレーションコードをレプリケーションしたり書き直ししたりして土地勘を養うのがよいとおもう。構造推定に限らず、共同研究などでのコードやデータ管理や環境設定はプログラマーのプロジェクトマネジメントを参考にベストプラクティスを探すのがよいらしい。

 

 

難所2. 複数の初期値を試して、(真値は当然分からないが)reasonableなパラメタが推定できるか。

 

これはいわゆる「いろんな特定化を試してsweet spotを探す作業」も含まれている。構造推定で厄介なのは特定化さぐりみたいなものが、「パッケージを使って回帰でいうXの関数形や組み合わせを試してみる作業」では済まず、コードを書き直して均衡を解きなおして推定するという作業が主になる。これはコーディングと計算時間の見積もりができない。あと、理論モデルで想定していない要素は、追加修正が絶対できない(たとえば、情報完備ゲームを想定していて、情報不完備ゲームな要素を追加することは絶対できない)。

 

また、reasonableかどうかは理論的に解釈できるかどうかだけでなく、次章の均衡計算で現実データを再現できるかどうか、反実仮想の均衡計算結果も理論的に妥当かどうか、という複数の基準がある。想定している反実仮想に応じて、すべての基準をクリアする必要があったり、推定値の解釈基準だけクリアすればいいだけのときもある。ただここの基準が緩いと、あとのパートで自分で解釈できないところがたくさん出てくる=推定コードがおかしい、という沼にはまってしまうので、ごまかさない方がよい。

 

 

難所3. 使う推定量に応じたStandard Errorを解析的にかブートストラップなりで計算して実装できるか、現実的な時間でそれが済むか

 

ブートストラップなら一つの特定化したモデルに対して1000回ぐらい解かないといけない。初期値に依存する非線形なモデルなんかは一つのブートストラップしたデータに対して30回異なる初期値を試すことになる。結果表に5モデル(列)あったら、5*1000*30回は計算する必要がある。並列化しないと永遠に終わらないし、一回の計算時間はせいぜい数分で終わらないとお話にならない。最初のうちに固定費はできるだけ削ることが大事です。

ソルバーに微分情報が与えれるならば、SEが計算できるし絶対そうしましょう(Dube, Fox, Su 2012)。

 

 

 

この章が薄っぺらいのは、誘導系の実証研究とそれほど変わらないからなのか、経験が薄いからなのかは識別不可能です。