構造と識別~構造推定と計量経済学に関するトピックを紹介する

踏み込んだ構造推定の日本語の文献がネットに転がっておらず、「構造推定」という響きのかっこよさに夢を抱いたりする人や、響きのうさんくささに勘違いしている人も多いので、土地勘のある自分が日本語でまとめます。気が向いたら。全ての記事はベータ版でござい。

みんな大好きdemand rotation IVを発明したブレスナハン1982の理論的計算的保証

「構造推定やりたい大学院生へのTips」兼「自分の備忘録」としてアクセプトされた論文のきっかけとGithub参照の工数を記録します。


論文はIOを受講した学部生でも知ってるものですが、これをちゃんとやってみるかなー、と思って突き進めるのはPh.D.の構造推定の授業受けてモンテカルロシミュレーション経験ある博士院生レベルなのかな、と思います。

 

きっかけは、私が自分のJMPでconduct parameterの推定を実装してみてどうやってもうまくいかなくて、特定化もだめなパターンがそもそも理論的にありそうだということまで突き止めたものの、数多ある先行研究もどう実装しているのか分からなかった(これが構造推定の究極の問題!)ので、同じ指導教官についてる友人(conduct parameterに詳しい、のちの共著者)に23年11月に相談DMしたのがきっかけです。

のちに一本だけモンテカルロシミュレーションしてるIOの教科書書いてる大御所が書いたペーパーを発見。これは「既存の有名モデルがふつうの設定では機能しません」という理論結果と数値計算結果でした(フィールド下位ジャーナルに載ってるものの有名ではない)。試しに彼らのモンテカルロシミュレーションをレプリケートしてる途中に、彼らのシミュレーションが複数間違ってることが分かり、こまごまとした実装上の設定を統一的に実験、年末年始には第一結果で20ページ弱のドラフトができて、1月中に指導教官のグループでプレゼン。そこで「いまある内容の前半だけでいい(=2つに分けろ)」「そもそも先行研究の理論結果自体も間違ってるんじゃ?」といわれ2月に精査して「先行研究の証明が間違ってることの証明」と「明示的に仮定を追加すると既存のモデルは成立するという証明」を作って3月中に前半部分で独立論文を完成。
後半部分は別のよくある特定化で別問題が発生することを発見して、指導教官の専売特許であるMPECって手法が解決するよ、という独立論文にした。


前半論文はlinear論文として英文校正して4月に投稿。5月にR&R(修正点はa/theの使い分けに関するコメントのみ)で英文校正に文句言って再校正してもらったもののまた低クオリティを引いてしまい、ネイティブの指導教官にa/theの使い分けを全部見てもらって再投稿、アクセプト。

後半論文はloglinear論文として4月末にできてたものの、指導教官チェックが上のR&Rや諸事情で後回しになり、5,6月にに証明アップデート,実験の再調整&クラスタに週に2,3日投げるを繰り返して時間消費、8月に英文校正、WP化、いったん放置。

検定論文は8月頭に飛行機内で6時間で(!?)書いて8月中に微調整、WP化、投稿、リジェクト後のリバイズはいったん放置。

 

で二人ともしっかりコーディングと手を動かしたのは実質11-3月の四ヶ月+4-8月以降は週に数時間で1カ月分と換算して、労働投入量は(2*5=)10人月、産出量は3本です。
結論、複雑にしすぎた構造推定はモンテカルロシミュレーションもレプリケートできないので、そういうのばかりやってる人は信用しないようにします。