構造と識別~構造推定と計量経済学に関するトピックを紹介する

踏み込んだ構造推定の日本語の文献がネットに転がっておらず、「構造推定」という響きのかっこよさに夢を抱いたりする人や、響きのうさんくささに勘違いしている人も多いので、土地勘のある自分が日本語でまとめます。気が向いたら。全ての記事はベータ版でござい。

反実仮想の分類

推定された値を使った反実仮想ってどんなものがあるか。
とりあえず均衡が解けるコードは手元にある前提で考えよう。たとえば均衡を解くのが重たすぎるので解かない2stepとかの手法が提示されているが、反実仮想を「解く」となったら結局均衡を解く必要がある。

解けないモデルを作って均衡解かないタイプの反実仮想しているペーパーがパブリッシュされてるのも意外とあるので、このへんは事前に解ける手法でいくのがトレンドらしい。


均衡が解けるコードがあるということは、経済学的理論的に正しいData Generating Processが閉じた形で実装されていて、パラメタとエラー項を与えれば、ばらつきのあるシミュレーションデータが作れるということである。
また、提示したモデルが正しく真値を推定できているかどうかという計量理論的妥当性も確認ができる、ということである。
ただ90%の論文はこの点を検証しないままパブリケーションされているので、事後的にモデルの性能を検証できるかどうかはかなり微妙である。

また、解けるサンプルを関心のあるサブサンプルに絞ります、というのも、推定してるサンプルと解くサンプル違うじゃん、ランダムサンプリングじゃないとダメじゃん、という話もとりあえず未解決っぽいのでおいておく。


第一に、推定されたパラメタのうちひとつを2倍3倍に変えたりして同じモデルを解くとどういうアウトカムになるか、という設定。
例えば、需要推定された価格弾力性の値を二倍に変えてやると、市場のシェアはどうかわるか。
学校選択の需要が推定されたときに、たとえば距離のdisutilityを二倍にしてやると提出する選好ランキングはどうかわるか。
->このタイプは政策含意が分からなかったが、「model decomposition」としてモデルの挙動をみてやる、という解答をしている人がいてこれがいいと思った。

第二に、推定されたパラメタは同じ、だけどモデルのうち関心のある要素をひとつ大きく変えて、モデルを解くとどういうアウトカムになるか、という設定。
例えば、需要推定された価格弾力性は同じにするが、合併を外生的に起こして二商品が同じ企業にコントロールされるような状況になると、市場のシェアと価格設定はどう変わるか。
学校選択の需要が推定されたときに、たとえばなんか補助金が事前に与えられていた時にそれを0にするとどう提出する選好ランキングはどうかわるか。
->このタイプは政策含意が制度的情報から直結しているが、実際その要素動かせるのかどうか、という点は別に考える必要がある。すごいペーパーは、この要素を動かす主体の意思決定(例えば政府の支出最小化)なんかも考えてる。


第三に、推定されたパラメタは同じ、だけどモデルの構成要素自体を変えてしまう、という設定。
例えば、オークションの設定をfirst price sealed bidから2nd price sealed bidにメカニズムを変えるとどうアウトカムが変わるか
プレイヤーの選択肢集合自体を外生的に増やしてやるとか情報集合を変えてやるなどゲームの設定自体を変えるとどうアウトカムが変わるか

->メカニズム自体を識別する、という発想はまだ未開拓。というか、観察されるDGPとそれをもとに推定したパラメタを維持して、違うDGPを考えるというのがどこまで通るかというのはどこまで許されるのか分からない。